海域・河川グループ

4つのプロジェクトに基づいた研究活動を行っています.

 

山田堰の土砂水理解析による斜め堰の新たな設計指針の提言

 福岡県朝倉市に位置する山田堰は,日本三大暴れ川と称される筑後川に江戸時代に建設された歴史的農業土木遺産である.200年以上経過した現代においても,同堰から取水された農業用水は約700haもの農地を潤している.山田堰の治水・利水両方の機能に優れていること,特殊な資材を使用しないこと,維持が容易で煩雑な操作が必要ないことに注目し,故中村哲氏を中心としたNGO「ペシャワール会」は,同堰をモデルにした堰をアフガニスタンの灌漑復興事業として複数建設し,2016年までに約16,000ha,約60万人の安定した灌漑復興を実現した.このような功績から,山田堰は2014年に国際かんがい排水委員会により世界かんがい施設遺産に登録されている.山田堰は,明治以前に国内で多く採用されていた「斜め堰」の一種であり,堤体にかかる水圧を低下させつつ,洪水を速やかに下流に流し土砂の流入を防ぐ効率的な構造をしている.斜め堰はその効率的な構造から「持続可能な河道の流下能力の維持・向上」に貢献できる建造物であるにも関わらず,国内ではほとんど姿を消しておりその価値が過小評価されている.以上のように,斜め堰の一つである山田堰を対象にその機能評価を行うことで,近年の頻発化・激甚化する洪水災害への対策の一つとして活用できる可能性を示すことを本プロジェクトでは目的としている.

 

また,本プロジェクトでは,「斜め堰」の適用に向けた設計指針の提示に向けた水理実験も行っている.PIV法を用いた水理実験により,堰周辺の流況を可視化することで,「斜め堰」の諸元(設置角度,高さなど)と流況特性の変化の把握を目指す.

 

博多湾の栄養塩管理に向けた陸海域統合管理システムの構築

 日本の沿岸域圏では,陸域からの流入負荷の増大に伴い富栄養化に起因する大規模な赤潮の発生などが問題視される一方で,排水処理技術の向上により流入する栄養塩のバランスが崩れ,生物生産力の低下といった問題も顕在化している.さらに近年では,気候変動による海水温の上昇や豪雨の激甚化・頻発化がさらなる環境変化をもたらし,沿岸域圏における環境異変が複雑化している.このように沿岸域圏では陸域における人間活動や気候変動の影響が複雑に絡み合い,様々な環境異変が発生し,健全な沿岸域圏の創出に向けた環境の最適制御が求められている.さらに近年では,国内の各地の下水処理場からの放流水を季節ごとに管理する季節別運転が各地で試験的に運用されている.そこで本研究プロジェクトでは,陸域上流から下流の内湾に至る,陸海域全体の水循環系と物質循環系を統合的に俯瞰する,いわゆる陸海域統合-水環境管理システムの構築を目指している.最終的に,陸域からの流入負荷および海域環境を考慮した下水処理場の排出削減目標を提示する陸海域統合-水環境管理システムを開発する.

 

CNN-LSTM Hybrid型モデルによる赤潮発生予測手法の開発

有明海では,陸域からの栄養塩類の流入を起源とする富栄養化に伴い,赤潮の頻発化が問題となって久しい.赤潮に起因した漁業被害は大きく,その被害総額は年間数十億を超えることもあり,対策として事前の赤潮発生予測が求められている.これに対し,人工知能技術(AI)を援用した赤潮予測技術に関する研究が進められているものの,データの収集にかかるコストや予測のタイミングという点で課題が残る.そこで本プロジェクトでは,有明海に蓄積された膨大なデータ群をAIの学習データとして活用することで,容易に入手可能なデータから赤潮の事前予測を可能とするシステムを開発することを目的としている.

 

深層学習と物理モデルのHybrid型洪水予測手法の開発

近年の気候変動の影響により,日本国内では洪水災害の激甚化・頻発化が深刻な問題とであり,洪水の予測技術の開発が求めれられている.河川の水位予測は降雨-流出過程を表現する物理型モデルと,データを元に予測を行う統計型モデルの2種に大別される.従来は物理型のモデルが主流であり,全国各地の河川に適用されている.近年の人工知能技術の急速な発展に伴い,洪水のリアルタイム予測への深層学習の適用が急速に進められている.しかし,深層学習にはいくつかの課題が存在する.まず,学習データに過適合してしまうことで学習範囲外の予測が困難になるため,学習データの選定がモデルの精度に大きく影響してしまう.また,洪水時のデータが不足している点も挙げられる.本プロジェクトでは,そうしたデータ不足を補うべく物理モデルの一つである分布型降雨流出モデルを用いて,教師データを補うことで深層学習による洪水予測の制度を上げることを目的とする.