研究室紹介

 水環境学研究室では,中山間域から沿岸浅海域に至る農業・農村地域の持続的な発展を目指した,海域・河川・湖沼・貯水池の地域水資源の保全・改善・創出に関わる研究を進めています.例えば,有機汚濁・富栄養化が顕在化した水域が抱える水環境学問題の解決や,農業農村地域における洪水予測技術の開発や水理構造物による洪水緩和機能の最大化に取り組んでいます.

 水質汚濁による水域の水環境問題の解決や,大雨時の洪水による自然災害の防止を考える上で大切なことは,『健全な水循環と水質環境の創出』にあります.これを簡単に説明すると,海域・河川・湖沼・貯水といった個々の水域あるいは流域内の水の流れと,それに伴う汚濁・汚染物質の移動(輸送)を適切にコントロールする技術が水環境保全に求められます.そして,この技術を支える専門的学問が環境水理学,水質工学,環境水文学です.

 主な研究活動として,実際の湖沼・貯水池・河川での水質・水理の現地観測,室内での水質・水理実験,そして水域内の水環境の動態に関する数理解析が挙げられます.いずれも環境水理学,水質学,環境水文学に基づいた応用的な水環境工学的な研究アプローチを採用しています.

 水環境学研究室の特徴は,⓵高度な水質分析技術の導入による水環境情報の獲得,⓶フィールドワークに基づいた水質・水理データの高度な数理解析や地理情報システム(Geographic Information System,GIS)技術を援用したデータ処理,⓷数値シミュレーションによる水環境の解析・予測,などを駆使することです.とくに,近年注目されている⓸AI技術を水域水環境の制御・管理に応用する研究も進めています.

アオコ水域

アオコの発生が深刻化する過栄養状態な貯水池での現地観測

有機汚濁水域

腐植酸の流入によって茶褐色化した有機汚濁水域

山田堰

筑後川山田堰(クリックすると,山田堰の説明画像が表示されます)

有明海

有明海における塩分拡散シミュレーション

GIS

環境水文学に基づいた筑後川の流域管理に向けたGISによる流域情報の抽出

ANNM

ニューラルネットワークによる富栄養化水域の水環境予測モデル

生態系モデル

水質の生物化学的な物質循環を表す生態系モデルの概念図

LED実験その2

LED照射(RB単色光)による無酸素化解消技術の開発のための室内実験

遮光フロート

遮光フロートの設置によるファームポンドの藻類抑制効果の実証実験

 

 

現在の主な研究活動

 水環境学研究室の研究活動は,閉鎖性水域グループ(担当:原田教授)と,海域・河川グループ(担当:田畑助教)の二つに大きく分けられます.両グループに共通していることは,1)有機汚濁・富栄養化による水環境劣化の発生メカニズムの定量的評価,2)数理・データサイエンスに基づいた農業・農村地域の水域水環境の推定・予測の視点から水環境工学的な研究を進めていることです.閉鎖性水域グループでは3)持続的な水域水環境の改善・修復技術の開発に,また海域・河川グループでは4)洪水予測手法の開発と水理構造物による洪水緩和機能の定量化に,それぞれ取り組んでいることがグループの特徴ともいえます.

 

水環境に興味のある高校生や学部学生の皆さんへ

 水環境学研究室では,環境水理学,水質工学,環境水文学の3つの専門を統合した,いわゆる水環境工学をベースに,持続的な農業農村地域の発展に欠かすことのできない地域水資源の健全な維持・管理への貢献を目指した研究を進めています.赤潮やアオコ,そして水域の貧酸素・無酸素化といった海域・湖沼・貯水池が抱える水環境問題の解決や,地球温暖化の影響を受けて頻発する大雨時の河川の氾濫への解決に興味のある方は,是非,当研究室への進学を検討してください.

 水環境学研究室に在籍することで,水質分析,水理実験,現地観測,データ解析,数値シミュレーションといった多様なスキルの修得が可能です.『水』あるいは『自然環境』への関心と,数学・化学・生物学・物理学のうち,一つでも強い興味をひく科目があれば,水環境学研究室での研究活動を大いに楽しむことができます.

 そして,農業農村工学的な立場から,水環境工学という専門教育を通じて,『専門知識・技術に基づき解決方法と手段を考え,具体的な実行計画を立てるとともに,効果的にチーム活動を進め,最終的に解決した結果について記録し報告する』といったエンジニアリング・デザイン能力に加え,マルチタスク能力やタイムマネジメント能力といった自己管理能力を備えた人材育成を意識的に行っています

現地観測1

ボートを利用した水質の現地観測

水質分析

富栄養化指標に関する水質分析